岡本 AGNI HUTTE(アグニ ヒュッテ)

なるか、出藍の誉れ

 わが国の鋳物の歴史とともに歩んできた岐阜県の老舗鋳鉄メーカー岡本。製造の中心はインフラ系や景観商品といった大型の鋳鉄製品である。その岡本が研究を重ねて発売したアグニC。愛知県立芸術大学教授である水津功氏によるモダンジャパネスク・スタイルで輸入薪ストーブ一辺倒だったわが国に新風を吹き込んだ。

 ただ、幅660mm、奥行き620mmと大型であったため市場からは“もうワンサイズ小型のモデルを”というリクエストが多くあったという。まだ産声を上げたばかりのアグニCであったが、2年後、次期モデルアグニCCが早くもリリースされた。CCはCのイメージを保ちつつ幅605mm、奥行き530mmまでコンパクト化することに成功した。この2トップで輸入薪ストーブに牛耳られているわが国の薪ストーブ界に切り込んだ。

 アグニCCの発売から2年、さらにコンパクト化を実現したアグニ・ヒュッテが完成した。開発グループによると、住宅の高気密高断熱化によって、より出力の小さなモデルの需要が高まるだろう、という予測の元にプロジェクトが始まった。ところが“小型化する、形態を大きく変える”ことは、今まで培ってきたアグニの燃焼理論をほぼ初めから考え直さなければならなかった。

 しかも、デザインを担当している水津氏の頑なまでのこだわりによって、1ミリの誤差もなく実現しなければならなかった。水津氏に依頼した際のテーマは、アグニの小型版であること、女性にも親和性の高い外観であること、というもの。これまでのアグニのラインナップから、格子柄を堅持するのは想像に難くない。しかし、重厚で直線基調のアグニはどうしても円やかさに欠ける。そこで水津氏が考えたのが、ドアフレームと両側面に丸みを帯びさせるというデザイン。これによりクールなフォルムに暖かみが加えられた。

 しかし、木型を製作する段階で、デザイナーの要求するプロポーションの作りこみが困難で、通常機械加工で製作する木型を、この部分のみ機械加工後、人の手によって滑らかなラインを実現した。これなどは代表的な手作業の例だが、この他にもヒュッテが出来上がるまでには多くの手作業工程があったという。

 また、最新のヒュッテには従来のアグニよりも進化したデザインが多く散りばめられている。ドアレバーや給気レバーは直線から曲線・曲面へ、大きく張り出した半円形のアッシュリップ、ドアの留め金には亜鉛メッキを施しロストワックス(精密鋳造)鋳造したロゴ、などなどである。アグニというブランドがより広くのユーザーに知られたからこそ、と言えるだろう。

 アグニシリーズの白眉は、何を置いてもその鋳造技術にある。このヒュッテもその技術を受け継いでいるが、小型化により、さらに技術に磨きがかかった。鋳鉄製薪ストーブの宿命となる弱点“接合部”。通常は燃焼室を囲む六面それぞれが独立していて、耐火セメントやファイバーロープ、単に立てかけ……、といった方法で固定している。ところがアグニの燃焼室は底面を除いた五面が一体成型。しかも、天井面であるバッフル板はもちろん、その上部触媒が置かれる二次燃焼チャンバーまでが一体なのである。

 これによって、鋳鉄製薪ストーブの宿命となっていた空気の漏れが極端に制御でき、燃焼効率の向上や一酸化炭素の室内漏出を防ぐのに大いに役立っている。ちなみに底面との接合はメタルガスケットによる。

 さて、取材中、思わぬニュースが入ってきた。ヒュッテが2016年度グッドデザイン・ベスト100を受賞したという。審査委員の評価では『丸みを帯びていて愛らしく、暖かさを見た目からも伝えてくれる良いデザインです。省スペース対応型の小さいサイズの薪ストーブですが、存在感があります。フロントドアハンドルの握り玉は木製で手に触れたくなり、チャームポイントとなっています』(ホームページより引用)とのことだ。薪ストーブにご興味のある方にも業界にも嬉しい話題である。

 筆者は以前よりプロジェクトチームに海外での展開を申し上げていたが、この受賞によって一歩近づいた気がする。歴史の浅いわが国の薪ストーブ製造がようやく海外製に肩を並べられるまでになった、というのは言い過ぎではあるまい。

インプレッションは薪ストーブライフNo.28でご覧ください。

文:中村雅美、写真:山岡和正

薪ストーブライフNo.51